2018年01月04日
皆さん、明けましておめでとうございます。
公認会計士・税理士の檜垣孝司です。
本日より、平成30年税制改正に関連した解説を順次掲載してまいります。
まず最初は、「特定の一般社団法人等に対する相続税の課税」についてお伝えしたいと思います。
(1)一般社団法人とは
いきなりこのタイトルを見せられても、まず、「一般社団法人て何だ・・・?」という方もいらっしゃるかと思うので、少しだけ、一般社団法人のお話をしたいと思います。
一般社団法人を一言でいうと、「持分のない株式会社」です。これでもまだ全然わからないと思うので、「持分がない」をもう少し掘り下げたいと思います。
(2)持分がないとは
通常、株式会社の貸借対照表の純資産には「資本金」という項目があり、この資本金に対応する株式が発行されています。株式会社では、各株主が持ち株割合に応じて株式会社の資産・負債(すなわち純資産)に対する支配権を持っており、これを一般に持分と呼んでいます。一般社団法人には、「資本金」がなく、その当然の帰結として、株式もありません。そうなると当然、「持分もない」ということになります。そのため、一般社団法人では、株式会社のように、たくさん株を持っている人が大きな支配権を持つということはなく、株主総会に相当する「社員総会」という会議体においても、一人当たり一議決権を持つことになり、単純な多数決で物事を決めていきます。
(3)一般社団法人は非営利事業しかできないのでは・・・?
株式会社というと、普通の営利目的の事業をやっているイメージを誰でも抱くでしょう。しかし、一般社団法人というと、「営利事業はできない」とか、「利益を出しちゃいけないんでしょ?」という方がいらっしゃいます。そんなことはありません。一般社団法人には事業内容の制限も、所得制限もありません。株式会社でやっているような事業を一般社団法人で行うことも、何ら違法性はないのです。
(4)持分がないとどういう利点があるのか
持分、つまり株式と言い換えてもいいでしょう。株式がないと何がいいのかというと、相続税対策において無類の強さを発揮します。通常、株式会社であれば、株式があり、事業がうまくいって内部留保が大きければ大きいほど、非上場株式であっても相当の株価が付きます。そして、その株式は当然株主に相続が発生した際には、相続財産を構成するのです。しかし、一般社団法人には、株式がない。確かに、株主に相当する「社員」という人たちはいるものの、株式という財産はなく、社員としての地位も一身専属。つまり、社員の地位は相続対象ではありません。そうなると、一般社団法人にどれほどの内部留保があろうとも、社員死亡時に「株式に相続税がかかる」ということはないのです。この特徴をうまく利用すると、特定の一族が代々一般社団法人の代表を務め続けた場合、事実上、その法人の財産を相続で受け継いでいるにもかかわらず、その財産を入れた器が一般社団法人であれば一切相続税がかからないという状況が発生します。もしも、株式会社であれば、相当高額な相続税が株式にかかるような場合であっても、一般社団法人を使うと、衝撃的な相続税の節税効果があるのです。
(5)平成30年税制改正の概要今回の改正の概要は次の通りです。
『特定一般社団法人(※1)の役員(理事に限る)(※2)である者が死亡した場合には、当該特定一般社団法人が、当該特定一般社団法人の純資産をその死亡時における同族役員(※3)(被相続人含む)の数で除して計算した金額に相当する金額を当該被相続人から遺贈により取得したものとみなして、当該特定一般社団法人に相続税を課税する。』
(※1)特定一般社団法人
次に掲げる要件のいずれかを満たす一般社団法人をいう。
@相続開始の直前における同族役員数の総役員数に占める割合が2分の1を超えること。
A相続開始前5年以内において、同族役員数の総役員数に占める割合が2分の1を超える期間の合計が3年以上であること。
(※2)相続開始前5年以内のいずれかの時において特定一般社団法人の役員であった者を含む。
(※3)同族役員とは
一般社団法人の理事のうち、被相続人、その配偶者又は3親等以内の親族その他当該被相続人と特殊の関係がある者(被相続人が会社役員となっている会社の従業員等)をいう。
(6)適用開始はいつからか
当該改正は平成30年4月1日以後の一般社団法人の役員の死亡に係る相続税について適用されます。但し、その前に設立された一般社団法人については平成33年4月1日以後の役員の死亡に係る相続税について適用し、平成30年3月31日以前の期間は上記(※1)Aの2分の1を超える期間に該当しないものとされています。